先輩~、来週の新規提案のプレゼン、僕が登壇なんですけど…。
浮かない顔をしてどうしましたか?
大学の時、プレゼンで大失敗した経験があって…また笑われたらと思うと手が震えて…。
結局、資料作りを先延ばしにしてます。
そうでしたか。また傷つきたくない気持ちがあるんですね。
あとは、どんな事が不安になりますか?
クライアントの表情と、うちの上長の評価です…。
失敗したら「やっぱり高橋はダメだ」って思われそうで。
みんなの期待を裏切りたくない、といったところでしょうか。
う~ん、まぁそんな感じですね。
その気持ち、よく分かります。
では、ここで一冊、高橋くんには『嫌われる勇気』を紹介したいと思います。
読んだことはありますか?
いえ、知らないです。過去の失敗に引っ張られちゃう僕にも効きます?
はい。
過去のトラウマは今の行動に影響を与えないということや相手の評価は相手の課題として分けることなどたくさんの気づきがあると思いますよ。
ふむふむ、なるほど…上長の眉間シワは上長の課題、か。
じゃあ僕は眉間シワ対策クリームじゃなくて提案を磨けばいいわけですね!
ええ、高橋くん。登壇はあなたの課題、評価は相手の課題。
まず一人の担当者が喜ぶ具体的な改善案を一つ入れてみましょう。それが貢献の一歩になります。
よし、怖くても一歩踏み出します!その本、もっと詳しく教えてください!
今回紹介する本はこちら
嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え
人は今この瞬間からでも変われる
人は簡単には変われない。
そう思い込んでしまう人は少なくありません。
「自分は昔からこうだから」
「もう年齢を重ねすぎたから」
そういう言葉を聞くことも多いでしょう。
しかし、アドラー心理学の根本的な考え方はまったく違います。
「他人は変えられない。だが、自分は変えられる」
「人は今この瞬間からでも変われる」
これは決して空虚な理想論ではありません。
過去にどんな経験をしていようとも、それは今の自分を縛るものではない。
幸福になるのに過去は関係ないのだ、とアドラーは強く伝えます。
そこで、今回紹介したいのが、『嫌われる勇気』という一冊です。
哲学者と青年の対話形式で書かれたこの本は、アドラー心理学を誰にでも分かるように噛み砕いて説明しています。
人間関係に悩み、自分を変えたいと願う人々に向けて、実践的で力強いメッセージを与えてくれるのです。
アルフレッド・アドラーは、フロイトやユングと並ぶ心理学者のひとりですが、彼の心理学はより「実践的」であり、「人はどう生きるか」という問いに直結しています。
過去ではなく、いま目の前にある行動。
そこに焦点を当てて人生を変えていこう―それが彼の考えなのです。
これから、この『嫌われる勇気』を紹介しながら、人が本当に変わるためのヒントを一緒に見ていきたいと思います。
できない理由を作るのは自分
なぜ私たちは、大切なことを「やりたい」と思いながらも行動できないのでしょうか。
多くの人はこう考えます。
「昔から何をやってもダメ」
「少し試して失敗したから」
「うまくいった経験がないから」
たとえば、身長が低いから告白できない。顔が良くないから挑戦できない。勉強ができないから認められない。
そうやって“できない理由”を過去から持ち出して、なかなか行動に移せないという人も多いのではないでしょうか。
では、なぜ人は「過去のせいで今がこうだ」と考えてしまうのか。
それは、「傷つかないため」にそうしているのです。
ここで知っておきたいのが 原因論と目的論 の違いです。
原因論(フロイト的な考え方)
人の行動や感情は 過去の出来事やトラウマ(原因)によって決まるとする考え方
例:「私は子どもの頃にいじめられたから、人前に出られない」
目的論(アドラー心理学の考え方)
人の行動や感情は 未来に向けた目的によって選び取られているとする考え方
例:「私は人前に出ない“という目的”を達成するために、過去のいじめを理由にしている」
つまり、行動できない本当の理由は「過去」ではなく、「傷つきたくない」という今の目的なのだとアドラーは唱えています。
人は失敗を避け、拒絶を避けるために「できない理由」を自分で作り出します。
「自分はダメだからできない」と思うとき、それは実は「やらないことを正当化する目的」を作り出しているにすぎないのです。
そうすれば、傷つくこともないし恥ずかしい思いをすることもないからです。
過去に縛られて生きるのか。
それとも、未来に向けた目的を見つめて今を選び直すのか。
ここに大きな違いがあるのです。
アドラー心理学はこう言います。
「過去のトラウマは今の行動に影響を与えない」
アドラーは原因ではなく目的に目を向けよ、と言います。
「できないのは過去のせい」ではなく、「できないのは“やらない”という目的を持っているからだ」と考える。
すると、世界の見え方は一変します。
一歩踏み出す勇気
「傷つきたくないから行動できない」
多くの人はそうした目的に縛られています。
では、そこからどうすれば抜け出せるのでしょうか。
まず、心に刻むべきことはひとつです。
「過去は関係ない」
どんな失敗や劣等感を抱えていようと、それは今の行動を決定づけるものではありません。
行動を決めているのは“今の目的”なのです。
では、どうすれば変われるのか。
アドラー心理学が示す答えは明快です。
「嫌われることを恐れずに、一歩踏み出せ」
もし告白して振られるのなら、それでいい。
振られるという経験を通して、今より確実に前に進むことができる。
自分を変えるというのは、これまで一度も足を踏み入れなかった場所に踏み込むことです。
心の中の“立ち入り禁止エリア”――本当はやりたかったのに、怖くてできなかったこと。
そこに足を踏み入れる勇気こそが、自分を変える第一歩なのです。
「でも、もし振られたら意味がないじゃないか」と思う人もいるでしょう。
けれど、考えてみてください。
告白せずに、ただ「できない理由」を頭の中で繰り返して悶々と過ごす今の状態。
それこそが、最も意味のない時間ではないでしょうか。
結果は自分にはどうすることもできない。
相手がどう答えるかは相手の問題であって、自分のコントロールの外にあります。
アドラー心理学の重要な実践概念のひとつに 「課題の分離」 があります。
課題の分離とは、自分がコントロールできること(=自分の課題)と、他人がコントロールすべきこと(=他人の課題)を切り分ける考え方で、人間関係の悩みの多くは「他人の課題に踏み込みすぎること」や「自分の課題に他人を介入させること」から生じるといいます。
- 告白するかどうか → 自分の課題
- 相手がどう答えるか → 相手の課題
自分の課題は自分で責任を持ち、相手の課題には介入しない。
これが「課題の分離」の実践です。
課題の分離を実践することで、人は大きな自由を手に入れることができます。
他人の反応や評価は相手の課題であり、自分がどうすることもできません。
だから、それに悩み続ける必要はないのです。
告白するかどうかは自分の課題ですが、相手がどう答えるかは相手の課題です。
仕事で精一杯努力するのは自分の課題ですが、その成果をどう評価するかは上司の課題です。
このように線を引けるようになると、「相手にどう思われるか」という不安から解放されます。
そして、他人に振り回されずに、自分の行動に集中できるようになるのです。
人間関係の中で本当に悩みを大きくしているのは、多くの場合「相手の課題に入り込みすぎること」です。
課題の分離を意識することで、自分の責任と相手の責任を区別できるようになり、より自立した健全な人間関係を築けるようになります。
人間の悩みはすべて人間関係である
「自分を変えるのは怖い」
誰もがそう感じます。
特に、これまで一度も挑戦したことがない行動を前にしたとき、人は強い恐れを抱きます。
しかし、忘れてはならないのは「他人は案外、自分のことを気にしていない」という事実です。
超有名な芸能人やよほど親しい間柄でもない限り、あなたが誰に告白しようが、いつ転職をしようが、髪の毛をピンク色にしようが、ほとんどの人にとってはどうでもいいことであり、まるで明日の天気予報くらいの関心しか持たれていないのです。
実際に、自分の容姿や身長、学力をそこまで気にしているのは他でもない“自分自身”です。
ここで、アドラーの有名な言葉をひとつ。
「人間の悩みはすべて人間関係の悩みである」
たとえば、「顔が悪い」「背が低い」「頭が悪い」といった悩み。
これらはすべて「他人の目」があるからこそ生まれるものです。
もし自分しかいない世界で生きているなら、顔や身長に悩むことなどありえません。
さらに言えば、「背が低いからモテない」というのも、自分が勝手に作り出した思い込みにすぎません。
確かに、背の高さを気にする人もいるでしょう。
でも、背が低くても自信に満ちていて魅力的な人も大勢いるのです。
むしろ、劣等感をバネにすることだってできる。
背の高い人にはない「頑張る理由」を持てるということです。
仮にその劣等感を乗り越えて成功できたとしたら、そして“身長では人を判断しない人”と出会えたなら、きっと「背が低くてよかった」と思える瞬間が訪れるはずです。
大切なのは、世界をどう捉えるか。
「劣等感があるから意味がない」と考えて行動しないのか。
「劣等感があるからこそ頑張れる」と捉えて乗り越えるのか。
では、「お金の悩み」はどうでしょうか。
一見すると人間関係とは無関係に思えますが、実はこれも例外ではありません。
なぜなら、お金という紙切れ自体には何の意味もないからです。
お金に価値を与えているのは人間であり、他者との合意があって初めて「お金」が成り立っています。
もし世界に自分しかいなければ、1万円札はただの紙切れにすぎません。
つまり「お金の悩み」もまた、人間関係があるからこそ生まれるのです。
収入が少なくて不安になるのは、他人と比べたり、家族を養えないことを心配するからではないですか?
広い家に住みたい、かっこいい車に乗りたい、キレイな服を着たい。
それはどうしてですか?
他者に認められたい、羨ましがられたい、そういう気持ちがゼロだと言い切れますか?
お金そのものが問題なのではなく、お金を介して他人とどう関わるかが悩みの本質なのです。
他人に期待するな
人間の悩みはすべて人間関係である。
そう考えると、私たちが抱える不安や迷いの根本が見えてきます。
「嫌われたくない」
「拒絶・否定されるのが怖い」
「家族や友人、上司に認められたい」
こうした思いが、私たちの行動を縛っているのです。
しかしアドラー心理学ははっきりと告げます。
「他人から嫌われることを恐れていたら、自分らしく生きることはできない」
大切なのは「嫌われてもいい」と心から思えることです。
もちろん、わざと嫌われろということではありません。
ただ、「嫌われるかもしれない」と怯えて行動できなくなることこそが問題なのです。
他人にどう思われるかを気にしてばかりでは、本当に自分のやりたいことは何一つできません。
だからこそ、「嫌われてもいい」という勇気が必要なのです。
さらにアドラーは、もう一つ大切なことを指摘します。
「他人から好かれることや、褒められることを期待してはいけない」
もし「褒められるため」に頑張っているのなら、今すぐやめましょう。
いずれ必ず行き詰まります。
なぜなら、誰も褒めてくれなくなった途端に努力をやめてしまうからです。
想像してみてください。
毎日、他人の顔色をうかがいながら、嫌われないように、褒められるようにと振る舞う人生。
それはあまりに窮屈です。
本来、人は「親の期待に応えるため」に生きるのでもなければ、「友達に嫌われないように」生きるのでもありません。
ましてや「上司に褒められるため」に生きるものでもありません。
自分の人生は、自分だけのものです。
たとえそれが親であっても、他人に譲ってはいけないのです。
もし、誰かの期待に応えようとばかりしていたら、私たちはいつまでも自分の人生を生きられないでしょう。
逆に「他人に嫌われても構わない」「褒められなくても構わない」と考えられるようになれば―きっと心は自由になります。
孤立を恐れる必要もありません。
もし孤立したとしても、その中で必ず「本音で分かり合える人」と出会えるからです。
大切なのは、自分を偽らず、自分の信じる道を進むこと。
その勇気を持てるかどうかで、人間関係の悩みは大きく変わっていくのです。
「他者はあなたの期待を満たすために生きているのではない、あなたが他者の期待を満たすために生きているのではないように」
価値は貢献から生まれる
「他人に嫌われてもいい」と考えるのは、口で言うほど簡単ではありません。
多くの人は心のどこかで「自分には価値がない」と思っているからです。
だからこそ、嫌われることが怖く、行動できないのです。
では、どうすれば「自分には価値がある」と思えるのでしょうか。
アドラー心理学の答えはシンプルです。
「人は、誰かの役に立っていると思えたときに、自らの価値を実感できる」
つまり、自分の価値を感じるには「他人に貢献すること」が欠かせません。
ここで大切なのは、他人に褒められるために貢献するのではない、ということです。
「ありがとう」と言われなくても、感謝されなくてもいい。
たとえ嫌われることがあったとしても、自分が『誰かの役に立っている』と感じられればそれでいいのです。
なぜなら、他人に貢献するのは相手のためではなく、自分のためだからです。
募金をするのも、仕事をするのも、猫の世話をするのも―すべては自分が「役に立っている」と思えるから。
そう思える瞬間に、人は「自分には価値がある」と実感し、自信と勇気が湧いてくるのです。
例えば、仕事。
お金に困っていない大富豪が、それでも仕事を続けているのはなぜか。
それは、収入のためではなく「仕事を通じて誰かの役に立ち、自らの価値を感じたいから」です。
けれど、仕事でなければならないわけではありません。
道路の掃除でもいい。
あいさつでもいい。
さらには、ただ「そこに存在しているだけ」でもいいのです。
親にとって、子どもがいてくれること。
恋人や友人にとって、そばにいてくれること。
赤ちゃんにとって、世話をしてくれる人がいること。
飼い猫にとって、ごはんをくれる人がいること。
それだけで、すでに十分「役に立っている」のです。
だからこそ、アドラーは言います。
「人は他人に貢献するときにだけ、自らの価値を実感できる」
嫌われる勇気を持ちたいなら、他人に貢献しよう。
それは「褒められるため」ではなく、「自分自身のため」に。
嫌われる勇気
ここまでの話をまとめましょう。
私たちが行動できない理由は、過去のせいでも能力不足でもありません。
本当の原因はただひとつ―「他人に嫌われる勇気がない」ということです。
そして、この勇気を持つためには「他人に貢献する」ことが必要です。
誰かの役に立っていると感じられるとき、人は自分の価値を実感できる。
その実感があるからこそ、人の目を気にせずに行動できるようになるのです。
ただし忘れてはいけません。
他人から褒められるために生きてはいけない。
他人に嫌われないために生きてもいけない。
誰かの期待に応えるためだけに努力しても、それはいつか行き詰まります。
他人の評価や承認に依存すれば、評価が途絶えた瞬間にやる気も途絶えるからです。
大切なのは、「他人がどう思うか」ではなく、「自分がどうありたいか」。
だからこそ、アドラーはこう語ります。
「他人の期待に応えるな。自分の信じる道を進め」
嫌われることを恐れて行動しない人生と、嫌われても構わないと覚悟して行動する人生。
その差はとてつもなく大きいのです。
もちろん、「嫌われてもいい」と腹をくくることは勇気のいることです。
けれど、その一歩を踏み出せば、世界の景色は一変します。
過去に縛られず、他人の顔色に縛られず、ただ「今」を生きる。
それが「嫌われる勇気」の本当の意味なのです。
おわりに
ここまで見てきたように、アドラー心理学は明確なメッセージを持っています。
人は、過去によって縛られる必要はない。
行動できない理由を「トラウマ」や「能力不足」に求めるのは、自分を守るための言い訳にすぎない。
本当の原因は「他人に嫌われる勇気がない」という一点に尽きます。
だからこそ大切なのは、他人に貢献し、自分の価値を実感しながら、嫌われることを恐れずに生きることです。
褒められるためにではなく、好かれるためにでもなく―自分の信じる道を生きるために。
結果がどうなるかは問題ではありません。
挑戦し、行動できたという事実こそが、自分を変えた証だからです。
告白して振られたかどうか、成功したかどうかは二の次です。
重要なのは、「挑戦できた自分を喜べるかどうか」。
結局のところ、人生の価値は他人が決めるものではありません。
自分が自分をどう捉えるか。
そこにこそ、幸福のすべてがかかっているのです。
アドラーの言葉を借りれば――
「人は今この瞬間からでも変われる」
そして、その第一歩は「嫌われる勇気」を持つことから始まります。